『原典黙示録』第32回 講義録(改稿)
田中大
今回は先生により『プラハの墓地』読解を踏まえた現在の政治的状況への包括的な言及がなされた。講義の端緒となったのは以下の引用である。これはユダヤ人の問題を論じたYouTubeのある動画に対して寄せられていたコメントの一部である。
タルムード、シュルハンアルク―ショッツェンハミツバッド第348条、「非ユダヤ人の所有する財産は本来ユダヤ人に属するものなれど、一時彼らに預けてあるだけである。故になんらの代償もなくして、これら財産をユダヤ人の手に収むるも可なり」
この引用には問題がある。以上のヘブライ語の題名の読みが誤っていることに加え、ここで引かれている『シュルハン・アルーフ』Shulchan Aruch とは16世紀に活躍したラビ・ヨセフ・カロの著作であり、最も権威あるユダヤ教法典の一つに数えられるが、タルムードとは別のテクストである。本書の内容はラビ・ヤコブ・ベン・アシェルがタルムードに基づいて書き上げた法典『アルバアー・トゥーリム』Arba’ah Turimについてのカロの詳細な注釈書『ベイト・ヨセフ』Beit Yosefの要約である。その中の一つの章をなす「ホッシェン・ミシュパット」Choshen Mishpatにおいては、主に民法についての議論が展開されている。だが、本テクストには膨大な注釈が存在するうえに、その中で特別に重要なものが定まっているわけでもない。そのため今回の講義の時点では、先生の検索によっても引用の典拠は確認できていない状況であった。
しかしながら先生は、以上の一節に、生誕の地から追い出されて放浪してきたユダヤ民族の信仰から生じた「アジェンダ」とそれがもたらすであろう事態について理解する手掛かりを見てとる。先生は次のように洞察する。共産主義と資本主義という二つのイデオロギーは一見互いに相矛盾するもののように見えるが、実際にはこれらの思想はいずれもこの「アジェンダ」を達成するための手段に過ぎないのであり、その点で同じ目的に奉仕する同根の思想である、と。