ラテン語講座 2020年12月4日

ラテン語講座(2020年12月4日)

尾谷祐樹 中垣太良

今回は前回の非人称動詞を受けて代名詞の本質に迫る講義が展開されました。

前回の講義では、非人称動詞の一つであるtaedet「飽き飽きさせる」は、それを感じる人としての対格に事由としての属格をとるということを学びました。(呉茂一『ラテン語入門』§371)

非人称動詞が一定の格を要請するという点を踏まえた上で、人称代名詞の属格に着目し、講義が進められます。

まずは中山恒夫『古典ラテン語文典』が参照されました。

そこには、人称代名詞の属格(例えば一人称の人称代名詞meī)について、属格支配の動詞や形容詞の目的語と用いられ、「‥のこと」という意味を示すとあります。

 

次に小林標『独習者のための楽しく学ぶラテン語』および松平千秋・国原吉之助『新ラテン語文法』を参照します。

するとそこには人称代名詞には一人称、二人称がある。そしてそれ以外の人・ものを指すときには指示代名詞を用いるということが説明され、活用表が載っています。そして所有の意味は所有代名詞が表しますから、それ以外の場合において、すなわち補語(動詞や形容詞の目的語)として人称代名詞の属格が使われることが説明されます。

これらの決まりはJONES&SIDWELLのReading Latinにも同様の記述があります。

 

ここまでで参照された文献からは「そのような決まり」を理解することは可能です。しかし「それはいったいいかなる必要に基づいてそうなっているのか」というところが判然としません。

 

そこで次に参照されたのが三好助三郎『新独英比較文法』でした。

ドイツ語は英語・フランス語と比較して格の働きがより強く残っており、これらを比較することによってラテン語の動詞・形容詞の格支配はより理解しやすくなるのです。

 

動詞は多くの場合目的語を伴って初めてその意味が成立します。ドイツ語において、動詞の対象となる語の4格(対格)を要請する動詞を他動詞と呼びます。

そしてそれ以外のものは自動詞というカテゴリーに含められ、動詞毎に2格(所有格)、3格(与格)などの格を要請します。

 

これを英語と比較してみます。英語においては、自動詞(ここでは think を例に取ります)が目的語をとるとき、格変化がないため対象となる語の前に前置詞(think の場合は of ) をつけることでそれを明示します。逆にこの of がない場合、think が対象としているものが何なのかを容易に判断することはできません。逆に前置詞が副次的なものであり、語と語の関係を格変化で表す言語においては、動詞毎に各支配の決まり(2格をとる、3格をとる)があることにより、その動詞が対象とする語を明示することができるのです。なお、英語では多くの場合においてこのように自動詞は前置詞を携えて使用されるため、これを間接他動詞と呼ぶとその文法的理解がより明快になります。

 

同様に、ドイツ語の形容詞にも特定の格を支配するものがあります。例えばmüdeという形容詞には、2格を従えて「〜に飽きた、うんざりしている」という意味を表す語法があります。

具体的には、Sie ist seiner müde. 「彼女は彼に嫌気がさしている」という文において、müdeは人称代名詞の三人称単数属格形seinerを従えます。

 

さて、以上を踏まえて今回の学びを整理すると

・まず人称代名詞の属格は所有の意味を表さず、

She is proud of me.

に示されるような「{私/君/私たち/君たち}のことを」という意味を表すということ

・上記のような場合に、動詞・形容詞が一定の格支配を持つことは、語と語の関係を格変化で表すというラテン語の特徴を踏まえることで理解されるということ

になります。

 

独語と英語の比較からラテン語の特徴を紐解いていくという原典研究所ならではの講義は、語学への深い理解を得るとともに、学びにおける「場」の大切さ、それを持てることの喜びを再確認する瞬間でもありました。

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