ラテン語講座 2020年12月11日
中垣太良
今回の講義ではまず城田俊『現代ロシア語文法』、『現代ロシア語文法 中・上級編』を参照し、ラテン語やドイツ語と同様に、ロシア語の人称代名詞属格(生格)も専ら動詞や形容詞の目的語として用いられることを確認しました。
思えば話はtaedet mē pigritiae tuae. という一文から始まり、非人称動詞taedetの語法、辞書の引き方、parsing(語形分析)、そしてラテン語と英語・ドイツ語・ロシア語との比較対照を通して、印欧語における人称代名詞属格の用法にまで広がったのでした。
知識そのものではなく、知識を連関させ、読解の際にそれを運用できるようにすることの重要性を再確認できました。ここに複数言語を学ぶ意義があります――言語間の共通部分と非共通部分の境界が明瞭になってくるからです。例えば人称代名詞属格の用法は印欧語に共通する性質ですが、ラテン語の動形容詞(11月20日拙稿参照)のようにその言語特有の性質もあります。共通部分は他言語と比較対照して理解を深め、ある言語特有の文法形式にはとりわけ注意を払う。語学は活用表の暗記だけでは到底足りません。このように知識を徹底的に連関させてはじめて「理解した」といえるのです。
〔補足〕
手持ちの辞書4つで‘taedet’を引いてみると、以下のような記述がなされています。小型のものから大型のものへ、という順番に並べてあります。
①James Morwood, Pocket Oxford Latin Dictionary
taedet, uit, taesum est 2 v impers
with gen or with infin and acc of person affected be tired or sick (of)
②D.P. Simpson, Cassell’s Latin Dictionary
taedet taedēre taedŭit, and taesum est, impers.,
it causes weariness or boredom; usually with acc. of pers. and genit. of thing : sunt homines quos libidinis infamiaque suae neque pudeat neque taedeat, Cic. ;
with infin. as subject : Ter., Verg.
③水谷智洋[編]『羅和辞典』
taedet -ēre taesum est, tr impers
飽きあきしている, うんざりしている〈alqm+gen[+inf]〉:
vos talium civium~ (CIC) あなたがたはそのような市民たちに辟易しているのだ/~jam audire eadem miliens (TER) 同じことを千回も聞くのはもううんざりだ.
④F. Gaffiot, Dictionnaire LATIN FRANÇAIS
taedet, taedŭit et taesum est, ēre,
¶1 impers. a) aliquem alicujus rei, être dégoûte, fatigué de qqch:
eos vitae taedet CIC. Att.5, 16, 2, ils sont dégoûtes de la vie ;
vos talium civium taedet CIC. Fl. 105, vous êtes dégoûtes de tels citoyens ;
me convivii taesum est PL. Most. 316, j’ai été dégoûte du festin ; 〔以下略〕
1行目には直接法現在形3人称単数(taedet)、現在不定法(taedēre)、直接法完了形3人称単数(taeduit, taesum est[1])、そしてSupīnum[2]が記されます。これを基本形(principle parts)といい、この4つさえ覚えていれば、動詞の他の全ての変化形を導き出すことができます。
次に、語義と語法が記述されます。①と②では、語法が ‘with gen or with infin and acc of person affected ’, ‘usually with acc. of pers. and genit. of thing’と書かれています。これは「感じる人として対格を、事由として属格を取る」という教科書(呉茂一『ラテン語入門』)の説明と対応しており、理解が容易です。一方③と④の‘alqm+gen[+inf]’ や ‘aliquem alicujus rei ’も同じことを言っているのですが、羅語辞書独特の言い回しが用いられており、ややわかりにくいかもしれません。③の‘alqm’は不定代名詞aliquis――英語ならsomebodyに相当します――の単数対格形の略号であり、「〈人〉の対格」を表します。④の‘aliquem’も同様です。最後に、④の‘alicujus rei ’について。alicujus はaliquisの、reiはrēs「物、事」の単数属格形であり、合わせて「〈物・事〉の属格」を表します。
②③④ではさらに例文が記され、かつ②と④では訳が施されています。
辞書の構造は各言語によって違い、用語の凡例も異なります――中には④のように、凡例があまり親切でなく、alicujus reiが「〈物・事〉の属格」を表すことを知っていないと理解が難しいような物もあるのです――。原典研究所では、先生が手ずから辞書を引き、それぞれの辞書の特性を説明してくださいます。このように、文法項目の説明に留まらず、読解に必要な「工具書」を使いこなすコツも同時に体得していくのが「原典語学」の特長です。
[1]一部の非人称動詞の完了形は、通常の形に加え、本来は受動完了に用いられる迂言形式(この場合はtaesum est)を使うことがあります。
[2]非人称動詞はSupīnumを欠いているため、ここでは記されていません。