『原典黙示録』第46回(3/20) 講義録

『原典黙示録』第46回 講義録

田中大

『プラハの墓地』とは政治小説である。政治とは即ち「地上で行われていること」である。無論、地上があれば地下もある。地上の世界は地下の世界に基礎づけられて成立している。したがって地上の世界で行われていることについて正確に知ろうとするならば、地下の世界について知らねばならない。地上の世界を論じるためには、前提として地下の世界について論じることが必要となる。

エーコはその博学を以てこの地下の世界で生じていることの核心を、物語という形式に包み込みながら論じた。その核心こそ「憎しみと差別のメカニズム」にほかならない。そしてこの核心は精神にとっては劇薬に等しい。先生が一年以上に亘る本講義で長い時間をかけて様々な問題について幅広くかつ緻密に論じることを必要としたのも、この劇薬の取扱いに慎重を期してのことであった。

今や、まさしく地下世界の盤根錯節の全体像を提示していた「言語史・宗教史・文化史」としての原典世界史概説において論じられてきたことは全て本講義へと流れ込み、また本講義は現代史の終点へむけて流れ込もうとしている。原典研究所におけるこれまでの講義の全てが新たに意味の経験の成熟を生じ始め、それ自体が一つの作品としての統一的な全体像を現しつつあるように思われる。

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