『原典黙示録』第54回(5/15) 講義録

『原典黙示録』第54回 講義録

田中大

フロイトの精神分析学もまた、単に小説の仕掛けに利用されているのみに止まらず、『プラハの墓地』という作品の土台をなしている。主人公シモーネ・シモニーニはフロイトと面識があり、自身の失われた記憶を取り戻すために、精神分析学の手法に基づき、ごく自然に、自発的に、思い出された自らの過去を日記として書いてゆくことを決心する。しかし、そうして日記を書き始めた彼は、すぐに別人格であるところのダッラ・ピッコラの存在に気付かされることになる。

こうしてたちまち日記は二重化され、二つの人格の間においてかりそめの対話が展開されてゆく。二重化された日記の記述はあたかも振り子のように揺れ動きながら記憶の靄をかき消してゆき、彼の「トラウマ」であるところの事件の真相を明らかにする。それと同時に別人格ダッラ・ピッコラは消え去り、対話は独白となってしまう。それでも、シモニーニは空しく日記を書き続ける。彼は書かずにはいられなかったのだろう。最終的に、日記は彼の死をもってようやく途切れるのである。

シモニーニは幼いころに聞かされた祖父の教え――これこそがこの小説の核心であると先生は強調される――を忠実に受け止め、『シオン長老の議定書』を完成させていた。偽書がその役割を果たすためには、著者は消え去らねばならない。『プラハの墓地』の筋plotが語り終えられ、シモーネ・シモニーニが歴史の闇に姿を消すとき、まさにそこから陰謀plotが語り始められることになるのだ。

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