『原典黙示録』第57回(6/5) 講義録

『原典黙示録』第57回 講義録

田中大

1797年から翌年にかけて、バリュエル神父が大著『ジャコバン主義の歴史のための覚書』を上梓した。これはテンプル騎士団、フリーメイソン、イルミナティといった秘密結社の陰謀がフランス革命へ至るまでの歴史を論じたものであるが、バリュエル神父にフィレンツェの“Army officer”シモニーニを名乗る男から本書について手紙が寄せられた。そこにおいて彼はバリュエル神父が論じた陰謀の歴史の裏側にユダヤ人が存在したということを示したのである。ここで陰謀の歴史とユダヤ人が結びつくのだが、エーコはそれを見逃さなかった。

“Army officer”シモニーニは一つの書簡を通して歴史の舞台に一瞬だけ姿を現した。そして彼の孫として設定された架空の人物であるシモーネ・シモニーニはその全重量を歴史のこの一点に支えられて『プラハの墓地』のなかに存在している。エーコはそこから歴史への視界が開かれるところの決定的な一点を見出したのである。そのためにシモニーニを中心として展開される物語は、一つの歴史像を明瞭に描き出す。

先生はこの歴史像を踏まえ、かつ有史以来の数千年の歴史に立脚しながら、つねに現在より先んじて語る。こうした態度を保つことは極めて難しい。しかし、そのように在らんとする意志をもたない者は、現在の中に埋没してゆくのみである。そうした人間が生きるのは無為の生でしかない。今を確かに乗り越えるために、私たちは「原典的に」在らねばならない。

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