『原典黙示録』第63回(7/17) 講義録

『原典黙示録』第63回 講義録

田中大

1929年、ローマ教皇庁はラテラノ条約で巨額の賠償金を得た。そして同年、教皇ピウス11世の要請を受け、ローマ教皇庁のフィナンシャルアドバイザーとして、新設された「聖座特別管理局」Amministrazione Speciale della Santa Sedeのトップの座に就任したのが、後のバチカン財政の礎を築いたと言われるユダヤ人金融実務家ベルナルディーノ・ノガーラであった。また、1942年にはピウス12世が「宗教事業管理局」Amministrazione delle Opere di Religioneを改組し「宗教事業協会」Istituto per le Opere di Religione(通称「バチカン銀行」)を設立した。莫大な収入を契機として、バチカンの金融・財政組織は再編されることになったのである。

次の教皇ヨハネ23世は、第二バチカン公会議を開き、エキュメニズムを進める。そこにおいてプロテスタント、正教会、そしてユダヤ教との和解が目指されることとなった。本公会議以降の時期にラテンアメリカを中心に活発になったのが「解放の神学」である。これはいわばマルクス主義と結びついた神学であり、抑圧され貧困にあえぐ民衆を解放することこそがキリスト教思想の本質であると見做す神学である。結局 、リベラルな教皇といわれた当時のパウロ6世もカトリックの長の立場からこれを公認することはなかったが、コロンビアやブラジルなど南米の一部の国々では左翼勢力とカトリック勢力とが結びつき、解放の神学の実践として過激な反政府闘争を展開していた。続いて教皇就任から34日で死去したヨハネ・パウロ1世の後を継ぎ、約450年振りの非イタリア人教皇ヨハネ・パウロ2世が誕生し、さらに次に選出された教皇ベネディクト16世は公式には高齢を理由として約1300年振りの自発的な生前退位を行ったが、彼の後任が史上初めてイエズス会から選出された南米出身(アルゼンチン人)の現教皇フランシスコであった。

以上のように、20世紀を通じてバチカンはそのあり方を大きく変えて来ざるを得なかったのだが、先生によって強調されたのは、こうした変様は単に表面的なものではなく、カトリック教会の根本的な変化だということであり、それはこれから先に起こる政治的大変動の中で一挙に明らかになるに違いないということであった。

ひとは言語によって体験を記述する。神々は記述に宿る。文化百般はそこから生じ来たる。ゆえに言語史・宗教史・文化史は記述論的な観点からすれば同一直線上に存在するのであり、こうした観点を獲得することが『世界史概説』講義の目的であったといえるだろう。そしてこの視座は政治史をいかなるイデオロギーにも与さない仕方で捉え直すための最も強力な参照枠である。今回まで数回にわたってなされたキリスト教についての一連の講義もまた、言語史・宗教史・文化史を縦横無尽に駆け巡ったのであったが、それらは常に政治史と現代の政治的状況の解明のための参照枠という位置づけにおいて取り扱われていた。ここで私たちが『世界史概説』において得た体験は異化される。古代の聖典を読み解くことと現代における戦いの前衛に立つことは、表裏一体であることが今や明らかになったのだった。

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