イタリア語講座 第14回(1/30)講義録

中垣太良

今回の講義では、以下の範囲(文番号はInglese版による)を読解した。

[3] E benché io iudichi questa opera indegna della presenzia di quella, tamen confido assai che per sua umanità gli debba essere accetta, considerato come da me non gli possa essere fatto maggiore dono che darle facultà di potere in brevissimo tempo intendere tutto quello che io in tanti anni e con tanti mia disagi e periculi ho conosciuto e inteso. 

[3] 私はこの著作が閣下への贈り物としてはふさわしくないと考えておりますが、そうはいっても、長年にわたり苦難と危険とに遭いながら知ったことの全てをごくわずかな時間でご理解いただける手立てを閣下に献じる以上に、大きな贈り物をすることは私にはできないことをご理解いただけるならば、閣下の寛容さによってじゅうぶん受け入れていただけることにちがいないと愚考しています。(拙訳)

まず“presenzia”の意味について。Harvey C. Mansfieldによる英訳では、“presence”「存在(感)」と訳されているが、ここではInglese版の注や仏訳(Yves Levyによる)を参考にし、“present”「贈り物」の意で取るのが文脈上妥当であろう。

続いて“benché〜tamen…”とは、セットになって「〜だけれども、とはいえ…である」という意味を表す、いわゆる「相関接続詞」である(benchéの導く譲歩節内部ではふつう接続法が用いられる。ここでも、iudichi<iudicare=giudicareの接続法1人称単数現在が使われている)。tamenは『伊和中辞典』はおろか、Treccani(https://www.treccani.it/)で引いても、項目としては出てこない。それもそのはずで、これはイタリア語というよりラテン語なのである。ここでInglese版の注釈が確認され、14年に渡りフィレンツェの第二書記局長を務めたマキャベリらしく、公文書で広く用いられたラテン語の語法を、イタリア語の文章のなかに採用していることが指摘された。

ところで、こうした接続詞の問題は、突き詰めていくと「行文」(文のはこび)の問題にまで及ぶ。

そもそも、文章を書くにはエネルギーが要る。自分しか見ないという前提で書き散らされた日記の類ならともかく、人の目に触れる文章を書くには意を決しないとできない。そして書く以上は、何かしらの意図を持って書くわけである。

この意図というのはしばしば、ある提題(テーゼ)について自らの主張を述べることである。例えば、ある制度について存続すべきか、廃止すべきかという提題に対しては、絶対に存続すべきだという主張と、絶対に廃止すべきだという主張とが両極として考えられ、この提題に対するあらゆる主張は両極の間に収まる。その際、「存続すべきだ。しかし一部は改変の余地がある。ところでこうした問題を考えるにあたっては……」/「廃止すべきだ。しかし新制度の創設にあたり旧制度のしかじかの要素は取り入れてもよい。なぜならまず第一に……そして第二に……」というように、文と文はさまざまに転調しながらつながってゆく。そしてこの転調は、段落を変えることによって典型的に示され、また接続詞などの文中要素も転調のマーカーとして機能する。こうした文と文とのつながりに着目しながら読んでいく読み方を「パラグラフ・リーディング」などと呼んだりもする。

しかし。

さりとて、わたしたちが文章を<読む>ためには、文中の形式に着目するだけでは決して足りない。なぜなら、わたしたちは文の内容を知るためだけに読んでいるのではなく、作者の筆遣いを、声つきを、呼吸を、魂を近くに感じ取りながら読んでいるからである。

したがってわたしたちは、いま読み進めている献辞も、単に周りくどい文章として聴き取るのではない。譲歩に譲歩を重ねた書面からは、マキャベリの声がにじみ聴こえる。その声がわたしたちの身を過ぎ去ったとき、わたしたちはそこに<追体験>の痕跡がのこされているのを知るだろう。

 

(補足:非常に細かいことで、おそらく解釈には影響しない部分だが、副詞句“con tanti mia disagi e periculi”において、miaが何を修飾しているのか気にかかった。disagipericuliもともに男性名詞の複数形であるから、これを修飾しているとすればmieiになるはずではないだろうか。)

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