『原典黙示録』第89回(2/5) 講義録

『原典黙示録』第89回 講義録

田中大

『プラハの墓地』の主題である『シオン長老の議定書』の中で展開されている議論は、ナポレオン3世時代のフランスの弁護士モーリス・ジョリーによる体制批判の書『マキャヴェッリとモンテスキューの地獄での対話』Dialogue aux enfers entre Machiavel et Montesquieuからの恣意的引用によって組み立てられている。そこにおいて、モンテスキューは理想的な民主主義社会の成立のために必要不可欠なシステムについて説く良識的思想家として登場し、マキャヴェッリは目的のためには手段を選ばない強権的君主の思考を代弁する悪しき思想家として描かれている。無論、本書におけるマキャヴェッリの言葉はマキャヴェッリの思想の正確な理解に基づくものでは決してなく、それを偏狭な「マキャヴェリズム」へと押し込めた典型的な理解であるといえる。

他方のモンテスキューは啓蒙主義思想潮流の中核をなす思想家であるが、先生によって指摘されたのは進歩思想の根源が啓蒙思想にあったということである。近世以降、進歩思想は様々な形態をとって様々な思想家によって論じられてゆく。ヘーゲルの弁証法的観念論はその一つの極点である。そしてそれを換骨奪胎することで成立したのがマルクスの唯物史観であったが、この思想史のアイロニーによって、19世紀以降の思想的状況は深刻な展開を見せる――その端緒を描くのが『プラハの墓地』であるということは本講義において様々な角度から示されてきたことであった――。その中で進歩は一つの腐敗した理想と化して、現代の体制的思想にも色濃く影を落としている。現代における思想的営為は、それを根本的に問い直す地点から出発せねば無意味であるだろう。

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