『原典黙示録』第13回 講義録
田中大
今回の講義ではカバラー思想を取り扱う前段階として、ユダヤ一神教の起源、そしてイディッシュ語関連の辞書や研究書が〈参照〉された。
講義の冒頭で、一神教の起源は本当にユダヤ教であるのかということが改めて問われ、J. K. Hoffmeier, Akhenaten and the Origins of Monotheismが繙かれた。アメンホテプ4世はエジプトの多神教の神々を排除して唯一神アテンの信仰を開始し、エジプト王国の首都をテル=エル=アマルナに遷した。しかし彼が死ぬとすぐに反発が起こり、アマルナは破壊され数千人の人間が亡命した。これがモーセに率いられた出エジプトであるというのである。フロイトはこの説を支持して遺著『モーセと一神教』Der Mann Moses und die monotheistische Religionを残した。この問題はユダヤ教という一神教の出自を考えるにあたって重要な示唆を与える。
ユダヤ教徒たちがディアスポラに至るまでの歴史は第11回の講義で通覧した通りであるが、ディアスポラ以後のユダヤ人は、セファルディムとアシュケナジムの二つの系統に分かれていく。セファルディムは北アフリカを通って南欧に入った人々である。アシュケナジムについては、彼らがどのような経路を経て移動したのかについて様々に議論が交わされている。その議論についてはここでは措くが、彼らが存在した記録が見られるようになるのは9世紀ごろからである。ユダヤ人が「世界史」に登場するようになるのも、この時期からであると先生は指摘する。彼らアシュケナジムが用いていたのがイディッシュ語である。ここでイディッシュ語の文献として、当言語唯一の概説書Max Weinreich, History of the Yiddish Language、そして辞典としてUriel Weinreich, Modern English-Yiddish Yiddish-English Dictionaryが参照された。
こうして「世界史」に登場した彼らであるが、彼らはヨーロッパ社会の中に暮らしていても、決してヨーロッパ人に同化することはなかった。彼らはゲットーに入って団結しながら、ユダヤ人というアイデンティティをもち続けた。これは一体なぜなのか。講義の最後に示された答えは、ユダヤ教徒には現世でなすべき “agenda” があるということであった。心の安らぎや天国での救いが中心目的となる他の一神教とユダヤ教とは、この一点だけが明確に異なっているのである。この現実の世界で正すべきことがあるという義務感こそが、ユダヤ教徒を彼らが生きる世界への積極的な働きかけへと駆り立てる。こうして彼らは「世界史」を大きく動かしていくことになったのだと先生は指摘する。
今や、『原典世界史講義』において明らかにされた〈端緒〉が現代の〈状況〉と結びつき、一つの〈問題系〉を構成する有様が浮かび上がってこようとしている。この延長線上に必然的に見えてくるもの、これこそが〈黙示録〉であろう。