『原典黙示録』第25回 講義録
田中大
『プラハの墓地』の主人公の祖父であるカピタン・シモニーニは、バリュエル神父宛てに送られた書簡――第4章においてその一部が引用されている――の差出人としてのみ、現実の歴史にその名を残している。バリュエル神父とは、テンプル騎士団の残党が結成した秘密結社の存在とその暗躍について論じた『ジャコバン主義の歴史のための覚書』をフランス革命最中に著した人物である。彼は本書においてはユダヤ人について一切言及していなかったのだが、ユダヤ人がさまざまな秘密結社に関与していると説くシモニーニの書簡を受け取ってからは、その意見に賛同してユダヤ陰謀論を展開したようである。そしてここからヨーロッパにユダヤ陰謀論が広まっていくことになる。彼の書簡こそまさに現代反ユダヤ主義の一つの淵源であった。
『ジャコバン主義の歴史のための覚書』は大いに物議を醸し、そこで論じられているような秘密結社の存在についてはナポレオンも調査を命じていた。彼こそ本連続講義におけるキーパーソンの一人である。彼はコルシカ島出身のコルシカ民族主義者であったが、パリの陸軍士官学校を出て砲兵士官に任官した。そして彼はフランス革命中に親仏派であることを理由に一族もろともコルシカ島を追放されたこともあり、フランスに骨を埋めることとなる。彼は革命の混乱の中で次々昇進していき、最終的にはブリュメール18日のクーデタを起こして政権の座に就き、フランス軍を率いてヨーロッパ統一を目指した大戦争に乗り出す。しかし、フランス革命が起こる以前の18世紀の段階で、第2次百年戦争の戦費によってフランス王国の国家財政は破綻していた。無論、それを引き継いだフランス革命施府の財政状況も決して良好なものではなかったはずである。では、ナポレオンはヨーロッパ各国と干戈を交えるための資金を一体どこから得たのか……。先生はこの点について論じた書籍が一切ないことを指摘したうえでこう推測する、ユダヤ人の資本家――ナポレオンは自由・平等・友愛の理念の下にユダヤ人をゲットーから解放していた――こそがその資金の提供者であった、と。
今回の講義では、第19回の講義において示された「全てはフランス革命から始まった」という原典式の歴史分析が、また別の視点から根拠づけられ証示された。こうしていよいよ現代史が適切な遠近法のもとに浮かび上がってきたように思われる。