『原典黙示録』第26回 講義録
田中大
ユダヤ人はナポレオンに市民権を与えられてフランス国内で自由に活動できるようになると、復古王政の時代には金融業界を中心にフランス社会に広く進出していった。そして1830年に七月革命が起こるとブルジョアジーに擁立された七月王政が成立し、これ以降の時代にユダヤ人は全盛期を迎えた。19世紀ヨーロッパの自由主義的な風潮の中では、ユダヤ人はほとんど問題にならなかったが、それもわずかな期間のみであった。
畢竟、ヨーロッパ人たちはユダヤ人を理解して受け入れていたわけではなかったのである。ユダヤ教の聖典を読んでその教義を理解するだけでは、ユダヤ人のことはわからない。両者の軋轢は増してゆき、最終的には20世紀のカタストロフへと至ることになる。そしてこのカタストロフはそれ自体が歴史上の大きな問題であると同時に、反ユダヤ主義対ユダヤ主義(あるいは反「反ユダヤ主義」主義と言ってもよいかもしれない)という現代にまで至るイデオロギー対立を生じさせた。こうした思想状況の中で、ユダヤ教とその内部にいる人間に対する認識は、かえって歪んでしまったように思われる。
本講義が『プラハの墓地』読解を通して論じるの主題の一つは、いかなるイデオロギーにも与しない仕方でユダヤ人の歴史を描き出すことである。今回の講義の中で先生が補足したように、「フランス革命から全てが始まった」という言葉は、「シュメールから歴史が始まった」とか「ローマ帝国から世界史が始まった」といったような単なるテーゼではない。イデオロギーから自由に歴史を語り出すための最初の言葉である。